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エネルギー代謝システムを利用する

体の中のさまざまな化学反応

まず、「エネルギー代謝のシステム」についてです。このシステムが、疲れを感じるプロセスに直接的に関わっており、このプロセスがうまく働かなくなると、疲れを感じたり、疲れの回復が遅れたりします。

簡単に言うと、エネルギー代謝とは、一言で言えば体の中でさまざまな化学反応を起こすことで、活動に必要なエネルギーを得る働きのことです。

エネルギー代謝を行うためには、糖と酸素が必要です。

まず、食べ物を摂り、肝臓などで処理して糖に変えます。それを呼吸で得た酸素で燃焼させ、細胞が生きていくためのエネルギーや、筋肉を動かして活動するためのエネルギーを得るわけです。

材料は糖と酸素ですから、血液中や各組織に糖と酸素が不足してくると、体がそれを察知して疲れの感覚が生じます。逆に、元気いっぱいの時は、両方が満ち足りている状態です。食べ物から糖を取り出したり、糖と酸素からエネルギーを取り出したりする際には、酵素と呼ばれる触媒が働きます。

これは、生物の体の中でつくられるたんばく質性の物質で、体の中で行われるほとんどすべての代謝に問わっています。酵素の働きなくして、私たちが生きていくことはできません。

そして、エネルギー代謝の過程では、疲労物質と呼ばれるもののひとつ、乳酸が生み出されます。この乳酸が体内にたまると、細胞の活動が滞ったり、筋肉が収縮する能力が低下するので、疲れの感覚が生じることになるのです。

血流のいい人は疲れないし、太らない

体の各組織に糖や酸素を運んだり、乳酸を押し流したりするのは、共に、血液の働きです。ですから、血流のいい人は疲れにくく、疲れが出ても、比較的早い時間で疲れが回復することになります。

逆に、血流が悪い人は、疲れやすい人、疲れが取れにくい人と言えるでしょう。血流は、エネルギー代謝を支え、疲れをためないために、非常に重要な役割を果たしていると言えるのです。

血流はまた、体温を保つうえでも非常に重要です。血流は、体のさまざまな場所で発生した熱エネルギーを、体の隅々にまで届けるからです。なぜここで体温を持ち出したかというと、体温もまた、エネルギー代謝を維持するのに不可欠だからです。

ほとんどすべての代謝は、酵素という触媒が関わって行われているのですが、この酵素の働きの度合いを決めるのが、体温です。

私たち人間の体の中で、酵素の働きが最大になるのは、体内の温度が、37・2度の時です。「それは微熱がある状態じゃないか」と思われるかもしれませんが、内臓などがある体の内部の温度(深部体温)です。

深部体温が37.2度の時、舌下や直腸の体温は、だいたい0.5度くらい低い、36.5~36.7度くらいになります。

私たちが普通に体温を測る時には、わきの下(腋裔)で測りますが、ここはさらに、0.5度ほど低くなり、36.2~36.5度になります。

体温は、体表に近づくにつれて、外気などの影響で低くなるわけです。このように血流が代謝を支え、体温を保ちます。その体温もまた、代謝を支えます。体温と血流によって、代謝が滞りなく行われていれば、私たちは疲れにくくなり、疲れをためない体質になることができるというわけです。

血流が滞っている人は体温が下がりがちです。体温が下がると、体のエネルギー効率が下がります。エネルギーを、活動のためにでなく、まず冷えている体を温めるために使わなくてはいけなくなるからです。

近年では、冷房を利かせすぎ、冷たい飲み物や食べ物を安易に摂るなど、冷えに無防備な人が増えていますが、こういう人は、みずから疲れやすい体質に陥っていると言えるでしょう。

さて、自律神経とエネルギー代謝のシステムの密接な関係、さらにそれらが疲れとどう関わっているのかが見えてきたのではないでしょうか。

つまり、自律神経のバランスが取れていると、血流がよくなり、体温も上がり、疲れにくくなります。そもそも自律神経は、代謝が最も効率よく行われる深部体温37.2度を恒常的に保てるように、体温をコントロールしようとしています。

ですから、自律神経のシーソーがきちんと機能している場合は、血流も体温もよい状態で保たれます。たとえば、交感神経が優位な状態が続き、血流が滞って体温が下がったとします。そんな時でも、休息を取って、副交感神経を優位にすれば、血管が拡張することで血流が回復し、体温も上がってポカポカしてくるはずです。

食後に、体がポカポカしてくるのが、いい例です。また、ラクすぎる生活で副交感神経優位が続いても、活動を始めて交感神経を働かせれば、筋肉から熱エネルギーが発生し、血管の過度の拡張が改善されることにょって血流が促され、体温も上がってきます。
結局、自律神経のシーソーをきちんと機能させるような、メリハリの利いた生活が、血流と体温を保ち、代謝を促進して、疲れない、疲れても回復しやすい体をつくるのです。

体の声にしっかり耳を傾ける 体は嘘をつかない

西洋医学では病気が完治しない

免疫学の立像から、「疲れのメカニズム」について、もう少し詳しく踏み込んでみたいと思います。その過程で、疲れない、疲れても回復しやすい体という意味での「体力のある人」になるための考え方も明らかにします。

疲れや体力の問題を見ていくことで、一般的な常識からは見えてこない、人間の体が持つ驚くべきメカニズムがわかります。

最初にお伝えしておきたいことは、「人間の体を、全体的な視野で診る」ことの大切さです。これは近年注目を集めている、「統合医学」「全体医学」などと呼ばれている医学の視点です。

統合医学的な見方が注目されているのは、ここ十数年で急速な発達を遂げた、体を臓器別に分析的に見ていく現代の西洋医学に対する反省が始まっているからだと思います。

西洋医学は、どうしても、体の部位や局所的な症状だけを診るため、視野が狭くなりがちで、体内で起きるさまざまな現象の真の原因を究明しにくくなっています。その結果、症状を「悪いもの」「あるべき体調からすれば間違った状態」ととらえ、症状だけ無理に抑え込むような対症療法などに走るのです。かえって疲れや病気を悪化させ、慢性化させてしまうことも少なくありません。

攻撃的な体力」「防衛的な体力」の使い分け

では、本当の意味で、疲れない、疲れても回復しやすい体をつくるためには、どうすればいいのでしょうか。そのためには、私たちの体調をコントロールしているシステムのうち、

  1. 自律神経
  2. エネルギー代謝
  3. 免疫

の3つを統合的に理解するといいのです。私たちの体は、極めて精巧かつ合理的につくられており、本来、こうしたシステムの絶妙な働きで、毎日元気いっぱいに、充実した人生を生きることができるようになっているのです。

さらに踏み込んで言うと、「体は間違えない」のです。間違っているのは、無理をしすぎたり、ラクをしすぎたりする、常軌を逸した極端な「生き方」のほうです。

極端な生き方という原因に対して、体は「素直に」反応します。極端な生き方で体内に発生した害のある物質や、荒れた体内環境を整えようとし始め、その結果として体の不調、さまざまな症状が出てくるのです。

この症状を、「悪い」「間違っている」とだけ見ること自体が、実は間違っていると私は考えています。体の驚くべきメカニズムを知った時、自分の生き方や体に対する考えが、根本的に変わってしまうでしょう。本来、体が持つパワーを引き出す生き方、疲れない、疲れを回復しやすい生き方を始めるきっかけになります。では、3つのシステムとは、いったいどんなものでしょうか。

1.自律神経システム

活動と休息に適した体調をつくり出すために、体のほとんどすべての細胞を支配している、言わば、体のコントロールタワーのようなものです。

2.エネルギー代謝システム

体がが活動する際に必要なエネルギーをうまく供給するシステムであり、疲れと直接的に関係していると言えるでしょう。

3.免疫システム

エネルギー代謝の材料となる食物や酸素を取り込む際、活動の過程で体内に侵入してくる外敵や異物、体内で発生するさまざまな老廃物や異常な細胞(がん細胞)などを排除し、体を守る役割を果たすことで、疲れが悪化して生じる病気から、体を防衛する役割を担っています。

疲れない体、あるいは疲れが回復しやすい体とは、言い換えれば「体力がある体」と言えます。私たちが、疲れを知らないように見える元気な人を指して、漠然と使う言葉です。

この「体力」という言葉を、もう少し細かく分析してみると2つの体力に分けることができます。つまり、活動のエネルギーが豊富だという意味の「攻撃的な体力」と、病気にかからないという意味の「防衛的な体力」。

この2つで構成されていると考えることができるのではないでしょうか。先ほど述べたエネルギー代謝のシステムは前者を担い、免疫のシステムは後者を担っている。

そして、自律神経のシステムは、両者のコントロールタワーになっていると言えます。体力がある体とは、3つのシステムがうまく機能し、活動のエネルギーが豊富で、かつ体を守る働きも強い、すなわち、攻めも守りも両方強い体だと言っていいと思うのです。

免疫体質のための週末の過ごし方

月に1回近所の銭湯に行ってみる

どんなにハードな生活をしている人でも平日から疲れをためない生活を意識している人は、疲れがたまらないし、倒れることはありません。

少ないながらも、月に1~2回は取れる休みの日は、近所の銭湯などに行って、ゆっくりと体を温めます。スーパー銭湯が多いですが。そのスーパー銭湯とは、さまざまな種類の風呂があり、数百円くらいで楽しむことができる浴場です。

体の調子を気づかいながら、いろいろなお風呂に入ったり、椅子に座って涼んだりして、長い時で2時間ほど過ごします。月に1~2回、2時間ほど連続して体を温めるというのは、体温を上げ、代謝を促進し、免疫力を上げて、疲れを取るために非常にいいと言えます。

できるだけ湯船に浸かったほうがいいと紹介していますが、自宅の浴槽は狭くて退屈なので、2時間も入っていることはできません。
ですから、休日を利用して、気分転換がてらスーパー銭湯や温泉などに行くのもお勧めです。

運動不足解消のための最低限の運動

たまの休日には、運動をしてみるのもよいでしょう。

運動の仕方にもコツがあります。無鉄砲に体を動かせばいいというものではないのです。体があまりつらくなるほどの激しい運動をすると、交感神経が優位になります。体が気持ちよくなるくらいの負荷がかかる有酸素運動、たとえば、ウォーキングや軽めのジョギングをすると、副交感神経を刺激することができます。

勝敗を競うスポーツは、興奮して交感神経を刺激しがちです。ですから、あまり他人と競ったりせず、個人で楽しめるような運動だと、副交感神経を刺激し、リラックスすることができるでしょう。

日ごろ仕事で疲れ果てているような人は、徐々に体を動かすようにしてください。交感神経が優位になり、体のあちこちに組織破壊が起きているかもしれないからです。

真面目な人は、「頑張って体を鍛えなくてはならない」「これをしなければならない」とキリキリした気持ちで始めがちですが、それはやめましょう。かえって疲れをため、体を壊すだけですから。できれば、豊かな自然の中や広い公園などで、ゆったりとした気分で、腹式呼吸をし、自分の体と対話するような気持ちで、少しずつ体を動かしてみてください。Jすると副交感神経が優位になり、感覚が研ぎ澄まされ、体の潜在的な声に気づけるようになるでしょう。

組織破壊が起きている場所から、悲鳴が聞こえてくるはずです。その悲鳴に、静かに耳を傾けるのです。「何だか、無理をしているな」「何を、そんなに焦っていたのかな」と気づけるようになれば、しめたもの。こうした感覚がよみがえってきたら、病気になる前に、生き方の修正を始めるのです。疲れをためない生活を実践して、体の血流が回復し、組織破壊がなくなり、体が普通の状態に戻ってきたら、「頑張って体を鍛える」こともいいですね。

ただ、鍛えすぎて筋肉隆々になってしまうと、逆に疲れやすくなります。大量の筋肉が、たくさんのエネルギーを消費するようになり、交感神経が緊張しがちになるからです。普通に仕事をしている人なら、そこまで鍛える必要はありません。

また、女性の場合、やせすぎて脂肪の量が減りすぎると、体温を保つ機能が落ちて低体温になり、かえって疲れやすくなるかもしれません。

たまには「体に悪いこと」をしてみるということも

これまでは、体が疲れないための習慣や考え方を紹介してきましたが、今度は逆説的に、「月に1~2回は、体に悪いこともしてみる」ことをお勧めしておきたいと思います。

もちろん、普段から、しっかりと疲れをためない生活をしており、十分な健康を保っている人にしか、お勧めできない方法ですが。

これまで紹介してきた、疲れない体をつくる生活習慣を実践していると、時々、窮屈さを感じて、いや気がさしてくる人もいるでしょう。
そうなると、結局は実践できなくなり、効果もまったく出なくなってしまいます。そもそも、ひとつの健康法に固執しすぎるのは、医学的に見ても、よくありません。精神的にはストレスがたまり交感神経が優位に傾きがちですし、体も常に変化∫ するので、ある時は体によかった健康法が、ある時は、よくないものになるかもしれません。

何事も、基本はしっかり押さえるべきですが、同時に、細かい点においては一定のおおらかさを持ったほうがいいと思います。「疲れない体をつくる生活習慣」についても同じです。基本的に私は、これまで述べてきた生活を、非常に気をつかって実践しています。これは毎日、少し神経質なくらいに生活習慣を意識しているからです。

しかし、時々、そののりをこえ、あえて羽目をはずします。実際に、そのほうが体の調子もよいのです。実は、私は、月に何回か、町に繰り出してお酒を楽しんでいます。その日は、大いにリラックスして仕事の疲れを癒し、大いに興奮して将来の夢を語ります。翌日は、二日酔いになります。前の晩は、12時くらいまでは起きていることになるので、寝不足にもなります。

通常は、睡眠時間は6~8時間取っており、満ち足りています。そうしたところに、ちょっと夜更かしする日をつくつてやると、かえって調子がよくなります。
あまり、睡眠時間が満ち足りていても、体が寝飽きてくるのでしょう。普段は体によいことをして生活している人が、時々、体に悪いことをするのも、実は必要なのです。いつも穏やかで満ち足りた健康状態を保っていると、それ以上、体の機能は鍛えられません。

限界状態の負荷に接して、体の能力を稔動員して戦うという機会が、なくなってしまうからです。何か負荷がかかって、そこからリカバリーを図る時に、体の機能がより強く鍛えられるのです。

食べ物については、普段、玄米・和食の人は、時々焼肉などを思う存分食べたらよいのです。それで、臭いうんこでもするくらいでいい。睡眠が満ち足りている人は、時々は夜更かしして遊び、翌日は苦しい思いをするといい。いつも快活で明るい人は、たまには、ウンウン悩むくらい精神的なストレスも受けたほうがいい。

風邪も引かないような生活を送っているなら、インフルエンザが流行った時など、わざわざ流行っている場所に出向いて、かかるのも悪くない。かかって熱に浮かされても、解熱剤などは使わない。体は、熟を上げて、リンパ球総動員でウィルスを攻撃し戦っているのです。

治った暁には、免疫力が高まっているでしょう。疲れにくい体をつくるには、基本的には、疲れをためない生活を送りながらも、時々羽目をはずして、疲れてみるとよいでしょう。基本的な健康状態に時折、負荷をかけ、生活のメリハリをつけることが必要だということです。つまり、私が提唱している生き方とは、考え方と実践において、厳格すぎず、おおらかな感覚も併せ持った生き方なのです。ただし、すでに、疲れがたまっている人は、まず、疲れをためない生活を一生懸命、実践するのが先ですので、そこはお忘れなく。